冷凍庫の保冷剤を捨てられない夜、私の中の小さな不安が溶けた話

ChatGPT Image 2026年5月7日 12_42_50


冷凍庫の奥で増えていく保冷剤は、なぜか私の本音に似ていました

連休明けの朝、冷凍庫を開けたら小さな白い袋に責められました

2026年5月7日、木曜日です。

ゴールデンウィークが終わり、街の空気が少しだけ通常運転に戻った朝でした。

暦の上では立夏を過ぎ、七十二候では「蛙始鳴」の頃です。

どこかで蛙が鳴き始める季節なのに、私の部屋では冷凍庫の奥から、無言の保冷剤たちがこちらを見ていました。

ケーキを買ったときのもの。

デパ地下のお惣菜についてきたもの。

夏に向けて使えるかもと思って取っておいたもの。

小さな白い袋が、冷凍庫のすみっこでぎゅうぎゅうに重なっていました。

私はそれを見た瞬間、なぜか少しだけ胸が苦しくなりました。

たかが保冷剤です。

でも、捨てられないのです。

「いつか使うかもしれない」

「夏になったら便利かもしれない」

「これ、まだきれいだし」

そんな言い訳をしながら、私は何年も保冷剤をためていました。

でも本当は、保冷剤をためていたのではありません。

“使わなかった私”をためていたのだと思います。

買ったケーキをひとりで食べた夜。

暑い日に誰かへ差し入れしようと思ったけれど、結局できなかった日。

ちゃんと暮らしている女性みたいに、何かをきれいに保存しておきたかった気持ち。

冷凍庫の奥には、そういう小さな私が凍っていました。

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「いつか使う」は、未来への希望ではなく不安の変装でした

保冷剤を捨てられない理由は、節約だけではありませんでした。

もちろん、もったいない気持ちはあります。

物価も上がっていますし、何でも簡単に捨てるのは気が引けます。

でも私の場合、もう少しややこしい感情がありました。

「何かあったときに困るかもしれない」

この気持ちです。

急に暑くなったら。

誰かに何かを渡すことになったら。

体調を崩して冷やしたくなったら。

停電したら。

お弁当を持っていく生活を始めたら。

全部、まだ起きていない未来です。

なのに私は、起きてもいない未来のために、冷凍庫の半分を保冷剤に明け渡していました。

少し笑えます。

でも、笑えないくらいリアルでもあります。

大人になると、未来に備えることが上手になります。

貯金をしなきゃ。

老後も考えなきゃ。

美容も手を抜けない。

仕事も続けなきゃ。

恋愛も諦めたくない。

家族のことも気になる。

自分の機嫌も自分で取らなきゃいけない。

そうやって毎日を回しているうちに、いつの間にか心の冷凍庫にも保冷剤が増えていきます。

「傷ついたとき用」

「断られたとき用」

「期待しすぎないため用」

「ひとりでも平気なふり用」

私は冷凍庫を見ながら、保冷剤ってこんなに哲学的だったんだ、と少し呆れました。

生活感のラスボスは、案外こういうところに潜んでいます。

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ひとつ捨てたら、なぜか部屋ではなく心に余白ができました

その朝、私は試しに一番古そうな保冷剤をひとつ捨てました。

たったひとつです。

冷凍庫の景色は、正直ほとんど変わりません。

でも、不思議なことに、私の中では少しだけ風が通りました。

5月の若葉みたいな、やわらかい風です。

保冷剤を捨てることは、未来への備えを全部やめることではありません。

不安に場所を貸しすぎないことなのだと思いました。

私はいつも、ちゃんとしていたいと思っていました。

急なことにも対応できる人でいたい。

無駄遣いしない人でいたい。

暮らしを整えている人でいたい。

誰かに「えらいね」と言われなくても、自分だけは自分を責めないようにしたい。

でも、ちゃんとすることに必死になりすぎて、私は自分の部屋の中で小さくなっていました。

冷凍庫にアイスを入れる場所もないのに、保冷剤だけは大量にある。

それはまるで、楽しみを入れる余白より、不安を保存するスペースを優先しているみたいでした。

だから私は、もうひとつ捨てました。

そして、もうひとつ。

全部は無理でした。

でも、半分だけ手放しました。

そのあとコンビニで、小さな抹茶アイスを買いました。

新茶の季節だから、という言い訳をつけて。

冷凍庫に入れたとき、私は少しだけ泣きそうになりました。

保冷剤を減らしただけなのに、そこに自分の楽しみを置けたからです。

暮らしを整えるって、収納ケースを買うことでも、完璧に掃除することでもないのかもしれません。

自分がうれしくなるもののために、場所を空けることなのかもしれません。



でも本当に捨てたかったのは、保冷剤ではありませんでした

その日の夜、私は残した保冷剤をもう一度見ました。

まだ数個あります。

全部捨てるほどの勇気はありませんでした。

でも、それでいいと思いました。

大人の心は、ミニマリストの部屋みたいに一気に片づきません。

不安も、未練も、期待も、少しずつ溶けていくものです。

私は冷凍庫の扉を閉めようとして、ふと一番奥にある保冷剤に気づきました。

それだけ、少し形が違いました。

手に取ると、昔好きだった人からもらったチョコについていた保冷剤でした。

その人とは、もう連絡を取っていません。

別に大恋愛でもありません。

運命でもありません。

ただ、当時の私は、そのチョコをもらっただけで少し浮かれていました。

「大切にされているかも」と思いたかったのです。

でも、その関係は曖昧なまま終わりました。

私はチョコの箱はとっくに捨てたのに、なぜか保冷剤だけ残していました。

ここで、私は自分でも笑ってしまいました。

未練の保存方法、クセが強すぎます。

私はその保冷剤を捨てようとして、一度手を止めました。

そして、思い直して捨てませんでした。

びっくりする展開ですが、私はそれを再利用することにしました。

翌朝、その保冷剤をハンカチに包んで、少し腫れていた目元に当てました。

泣いたわけではありません。

たぶん、寝不足です。

たぶん、スマホの見すぎです。

たぶん、少しだけ人生を考えすぎました。

冷たい保冷剤が、まぶたにじんわり触れました。

そのとき私は思いました。

捨てられなかった過去も、使い方を変えれば、今の私を少し冷ましてくれるのかもしれません。

過去は全部、捨てなくてもいい。

ただ、冷凍庫の奥で凍らせたままにしなくていい。

誰かにもらった小さな保冷剤は、恋の証拠ではなく、今の私をいたわる道具になりました。

それで十分でした。

私はその日、冷凍庫にできた小さな隙間を見て、次は冷凍うどんを入れようと思いました。

ロマンチックな結末ではありません。

でも、生活はだいたいそんなものです。

失恋の跡地に、冷凍うどんが入る。

それくらいのたくましさで、令和の女性は今日も生きています。

そして私は、保冷剤を全部捨てるより先に、自分にこう言ってあげたくなりました。

「もう、不安ばかり冷やさなくていいですよ」

5月の夜は、少しずつ夏の気配を連れてきます。

冷凍庫の中身も、心の中身も、季節に合わせて少しずつ入れ替えていけばいいのです。

完璧じゃなくていい。

捨てきれなくてもいい。

ただ、自分の楽しみを入れる場所だけは、ちゃんと残しておきたいです。





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